銀河の渚で
この画像は、伊達市内で撮影した噴火湾上空に浮かぶ天の川です。
銀河とも呼ばれる天の川は、夏から秋にかけ、
暗い場所で夜空を見上げるとぼんやりとした雲のような、
淡い光の帯のように見えます。
▲噴火湾上空の天の川(撮影:2020年9月20日20:07 伊達市北黄金町)
歴史をひもとくと、人類は長い年月をかけて
星空に横たわる光の帯『銀河』とはいったい何なのか
という答えを求め続けてきました。
プラネタリウムの全天周映像番組は、
今月から『銀河の渚で』(製作:合同会社アルタイル)を投影しています。
この番組は、天の川が七夕伝説の舞台になったのをはじめ、
世界中に伝わる神話や伝説の紹介から始まります。
たとえばギリシャ神話には、英雄ヘルクレスが
乳児のころに飲んだミルクが口からあふれて流れ出したのが銀河となり、
英語の『ミルキー・ウェイ』の語源となったという伝説をはじめ、
インカ帝国などに伝わるエピソードを紹介します。
次に銀河の解明に挑戦した歴代の科学者の足跡をたどります。
「銀河は星の集まりでは?」と唱えたのが、
紀元前のギリシャの哲学者・デモクリトスです。
望遠鏡やコンピューターがない古代ギリシャ時代の
文明や想像力には驚かされます。
17世紀になるとイタリアの天文学者・ガリレオ・ガリレイが
望遠鏡を使い、雲のように見える銀河は、
実は無数の恒星の集まりであることを発見します。
さぞかしその美しさに感動したことでしょう。
天の川が星の集まりであるならば、
その無数とも言える星々はどんなふうに広がっているのでしょう?
それを知ることで、太陽系をはるかに超えた
広大な宇宙の地図を描くことができます。
その偉業に挑戦したのが18世紀イギリスの
天文学者ウィリアム・ハーシェルです。
ハーシェルは口径48センチメートルという当時としては
超大型の望遠鏡を使い、1784年に宇宙の断面図を作るという
大きな功績を残しました。
▲『銀河の渚で』のリーフレット
さて、宇宙誕生から数億年後に生まれたといわれる銀河。
さまざまな姿に形を変えながら現代に至っていますが、
未来の銀河はどう変わっていくのでしょう?
たとえば、天の川銀河のとなりにあるアンドロメダ銀河は、
天の川銀河のおよそ2倍の大きさで、
となりといってもおよそ250万光年も離れています。
この2つの銀河は少しずつ近づいており、
およそ45億年後には2つの銀河が衝突するのではないかと予想されています。
とするとそのころのわたしたちの太陽系はどうなっているのでしょう?
このように『銀河の渚で』は、世界各地に伝わる天の川伝説をはじめ、
探求の歴史、銀河系の誕生から遠い未来の姿、
そして2千億個ともいわれるきらめく星の集まりや星雲・星団など、
美しい銀河系の世界を、迫力あるドーム映像でご覧いただけます。
この番組は8月末まで投影する予定です。
美しい映像と心地よいナレーションをぜひお楽しみください。
※室蘭民報 2023年6月25日掲載予定
てんびん座
今年は春の訪れがとても早く、室蘭の桜は4月21日に開花しました。
これは平年の5月4日より13日も早いという、記録的な早さでした。
そのぶん桜の時期が終わるのも早く、
色鮮やかな新緑の時期もあっという間に終わろうとしています。
これも地球温暖化の影響なのでしょうか?
そんな地上の出来事とは関係なく、夜空を見上げると
いつもの年と同じように、春の星座を主役に
夏の星座も登場し始めています。
▲さそり座(左下)とてんびん座(撮影:2021年6月28日20:48 室蘭市香川町)
今回紹介するのは夏の星座・てんびん座です。
星空観察のガイドブックによっては、春の星座に
分類することもありますが、初夏の南の夜空で、
春の星座・おとめ座と夏の星座・さそり座の間に見られます。
一番明るい星が3等星とあまり目立たない星座ですが、
3つの星がひらがなの『く』の字をさかさまにしたような
形に並んでいるのが特徴で、黄道12星座の一つに、
そしてトレミーの48星座に数えられる歴史ある星座です。
かつててんびん座は、さそり座の一部とされた時代がありました。
てんびん座のα星はズベン・エル・ゲヌビで、アラビア語で『南のつめ』。
β星はズベン・エス・カマリで同じく『北のつめ』、
そしてγ星はズベン・エル・ハクハクラビで同じく『サソリのつめ』で、
これらの呼び名はてんびん座がさそり座の一部だった名残のようです。
ではなぜさそり座の一部とされていたてんびん座が
独立した星座になったのでしょう?
現在おとめ座にある秋分点が、歳差運動の影響で古代には
てんびん座付近にあったとされています。
秋分のころは、昼と夜の長さが等しいことから、
その長さが釣り合う象徴として、
てんびん座を独立させたと考えられます。
また、一説には正義の女神が人間の善悪を計るツールとして、
このてんびんを使ったと伝えられています。
この正義の女神像は、日本の最高裁判所にも設置されており、
最高裁のホームページには「左手に天秤、右手に剣を持ったブロンズ像は、
ギリシャ神話の法の女神『テミス』をモデルとして作られた『正義』像です。
左手の天秤は『公平・平等』を、右手の剣は
『公平な裁判によって正義を実現するという強い意志』を表しています」
という解説が載っています。
てんびんとなった今では、α星がキファ・アウストラリス(南のかご)、
β星はキファ・ボレアリス(北のかご)という別名を持っています。
なお、このα星は実は2重星で、明るい星が2.8等星、暗い星が5.2等星で、
双眼鏡で見るとわかりやすく、
視力の良い人なら肉眼でも識別できるでしょう。
かつてはさそり座の一部とされていたてんびん座。
多くの方は夏の星座に分類するのが自然だと思うことでしょう。
これについてプラネタリウム解説の大先輩・山田卓氏は、
著書でビバルディの協奏曲『四季』の移り変わりにたとえ
『てんびん座は、春の星空が夏の星空に移り変わるときの、
ほんの短い休止符だ』(夏の星座博物館・地人書館 2005年)という
名解説を残されています。
※室蘭民報 2023年5月28日掲載
からす座
室蘭市内で星を撮影するにはどこがいいですか?と
質問されることがあります。
市街地からわずかな時間で行ける海岸がおすすめです。
絵鞆岬からマスイチ浜を経て、トッカリショに至る海岸線は、
昼間訪れると風光明媚な景色が楽しめ、夜はきれいな星空が見えます。
▲『おとめ座のスピカとからす座』(撮影:2019年5月5日20:17 室蘭市東町)
私がよく利用するのがこのからす座を撮影したイタンキ浜です。
昨年イタンキ浜付近に市場が移転してきましたが、
その市場の西側の駐車場がおすすめです。
周囲の街灯が少ないうえ、駐車スペースが広く、
対岸の恵山岬付近に気になる街明かりはありません。
恵山岬の東側は暗闇が広がり星を観察・撮影するのに良い場所です。
さて、今回は春の星座・からす座を紹介します。
北東の空に見える有名な北斗七星のカーブにそって、
うしかい座の1等星アークトゥルス、そしておとめ座の1等星スピカを結ぶ
雄大な曲線は『春の大曲線』と呼ばれています。
その曲線をさらに延ばした先、スピカのとなりに
4つの3等星による台形型の星の並びがからす座です。
からす座は、明るい星のない小さな星座ですが、
2世紀にプトレマイオスが定めた48星座の一つに数えられる歴史ある星座です。
この星の並びからカラスを連想することはむずかしいですが、
からす座に関するギリシア神話でその由来がわかります。
プラネタリウム解説の大先輩で、かつて名古屋市科学館におられた
山田卓(やまだたかし)さんの著作に詳しいのでその抜粋を紹介します。
「伝説のカラス(コルブス)は、銀色の翼が美しい太陽神アポロンの
使い鳥だった。アポロンはコロニスという美しい娘を妻に迎え、
そのカラスを召使いとして彼女にあたえた。
留守にすることが多いアポロンは、時々カラスを呼びつけ、
愛するコロニスのようすを話させて心を休めた。
カラスは自分の話を興味深げに聞いてくれるのがうれしく、
はなしぶりは次第に面白おかしく脚色されるようになった。
コロニスは夫のいないさびしさから、いつしか若者イスキュスに
恋心を抱くようになった。当然このことは、カラスの口から
彼女の不始末物語として、いかにも一大事というふうに語られた。
コロニスに裏切られたことを知ったアポロンは、
怒りくるってコロニスとイスキュスを殺してしまう。
アポロンの怒りはこのいやな話を得意げに告げたカラスにもおよんだ。
カラスは美しい翼を真っ黒にされ、おまけに恐ろしいほどのしわがれ声にされ、
天にはりつけにされた。暗黒の夜空に黒いからだは見えないが、
カラスをささえる4本の銀の鋲だけがめだっている」。
(『春の星座博物館』 地人書館 2005年 原文ママ)
なお日本では、からす座の4つの星がよく目立つことから、
シンプルに『四つ星』と呼ぶ地方が多く、
また、水平線の上にまるで船の帆のように見えることから、
『帆かけ星』という風流な呼び名も残っています。
※室蘭民報 2023年4月23日掲載
宵の明星・金星

天文台の星空~南半球チリの星月夜~