いぶりの☆星空散歩
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銀河の渚で

この画像は、伊達市内で撮影した噴火湾上空に浮かぶ天の川です。

銀河とも呼ばれる天の川は、夏から秋にかけ、

暗い場所で夜空を見上げるとぼんやりとした雲のような、

淡い光の帯のように見えます。


179『銀河の渚で』噴火湾の天の川110A6460  

▲噴火湾上空の天の川(撮影:20209202007 伊達市北黄金町)


歴史をひもとくと、人類は長い年月をかけて

星空に横たわる光の帯『銀河』とはいったい何なのか

という答えを求め続けてきました。


プラネタリウムの全天周映像番組は、

今月から『銀河の渚で』(製作:合同会社アルタイル)を投影しています。

この番組は、天の川が七夕伝説の舞台になったのをはじめ、

世界中に伝わる神話や伝説の紹介から始まります。


たとえばギリシャ神話には、英雄ヘルクレスが

乳児のころに飲んだミルクが口からあふれて流れ出したのが銀河となり、

英語の『ミルキー・ウェイ』の語源となったという伝説をはじめ、

インカ帝国などに伝わるエピソードを紹介します。


次に銀河の解明に挑戦した歴代の科学者の足跡をたどります。

「銀河は星の集まりでは?」と唱えたのが、

紀元前のギリシャの哲学者・デモクリトスです。

望遠鏡やコンピューターがない古代ギリシャ時代の

文明や想像力には驚かされます。


17世紀になるとイタリアの天文学者・ガリレオ・ガリレイが

望遠鏡を使い、雲のように見える銀河は、

実は無数の恒星の集まりであることを発見します。

さぞかしその美しさに感動したことでしょう。


天の川が星の集まりであるならば、

その無数とも言える星々はどんなふうに広がっているのでしょう?

それを知ることで、太陽系をはるかに超えた

広大な宇宙の地図を描くことができます。


その偉業に挑戦したのが18世紀イギリスの

天文学者ウィリアム・ハーシェルです。

ハーシェルは口径48センチメートルという当時としては

超大型の望遠鏡を使い、1784年に宇宙の断面図を作るという

大きな功績を残しました。


179銀河の渚で_リーフレット-1

▲『銀河の渚で』のリーフレット



さて、宇宙誕生から数億年後に生まれたといわれる銀河。

さまざまな姿に形を変えながら現代に至っていますが、

未来の銀河はどう変わっていくのでしょう?


たとえば、天の川銀河のとなりにあるアンドロメダ銀河は、

天の川銀河のおよそ2倍の大きさで、

となりといってもおよそ250万光年も離れています。

この2つの銀河は少しずつ近づいており、

およそ45億年後には2つの銀河が衝突するのではないかと予想されています。

とするとそのころのわたしたちの太陽系はどうなっているのでしょう?


このように『銀河の渚で』は、世界各地に伝わる天の川伝説をはじめ、

探求の歴史、銀河系の誕生から遠い未来の姿、

そして2千億個ともいわれるきらめく星の集まりや星雲・星団など、

美しい銀河系の世界を、迫力あるドーム映像でご覧いただけます。


この番組は8月末まで投影する予定です。

美しい映像と心地よいナレーションをぜひお楽しみください。


 ※室蘭民報 2023年6月25日掲載予定

 

 



てんびん座

今年は春の訪れがとても早く、室蘭の桜は4月21日に開花しました。

これは平年の5月4日より13日も早いという、記録的な早さでした。

そのぶん桜の時期が終わるのも早く、

色鮮やかな新緑の時期もあっという間に終わろうとしています。

これも地球温暖化の影響なのでしょうか?


そんな地上の出来事とは関係なく、夜空を見上げると

いつもの年と同じように、春の星座を主役に

夏の星座も登場し始めています。


178-てんびん座110A2780さそり座(左下)とてんびん座(撮影:20216282048 室蘭市香川町)


今回紹介するのは夏の星座・てんびん座です。

星空観察のガイドブックによっては、春の星座に

分類することもありますが、初夏の南の夜空で、

春の星座・おとめ座と夏の星座・さそり座の間に見られます。


一番明るい星が3等星とあまり目立たない星座ですが、

3つの星がひらがなの『く』の字をさかさまにしたような

形に並んでいるのが特徴で、黄道12星座の一つに、

そしてトレミーの48星座に数えられる歴史ある星座です。


かつててんびん座は、さそり座の一部とされた時代がありました。

てんびん座のα星はズベン・エル・ゲヌビで、アラビア語で『南のつめ』。

β星はズベン・エス・カマリで同じく『北のつめ』、

そしてγ星はズベン・エル・ハクハクラビで同じく『サソリのつめ』で、

これらの呼び名はてんびん座がさそり座の一部だった名残のようです。


ではなぜさそり座の一部とされていたてんびん座が

独立した星座になったのでしょう?

現在おとめ座にある秋分点が、歳差運動の影響で古代には

てんびん座付近にあったとされています。

秋分のころは、昼と夜の長さが等しいことから、

その長さが釣り合う象徴として、

てんびん座を独立させたと考えられます。


星図(掲載用)てんびん座


また、一説には正義の女神が人間の善悪を計るツールとして、

このてんびんを使ったと伝えられています。


この正義の女神像は、日本の最高裁判所にも設置されており、

最高裁のホームページには「左手に天秤、右手に剣を持ったブロンズ像は、

ギリシャ神話の法の女神『テミス』をモデルとして作られた『正義』像です。

左手の天秤は『公平・平等』を、右手の剣は

『公平な裁判によって正義を実現するという強い意志』を表しています」

という解説が載っています。


てんびんとなった今では、α星がキファ・アウストラリス(南のかご)、

β星はキファ・ボレアリス(北のかご)という別名を持っています。

なお、このα星は実は2重星で、明るい星が2.8等星、暗い星が5.2等星で、

双眼鏡で見るとわかりやすく、

視力の良い人なら肉眼でも識別できるでしょう。


かつてはさそり座の一部とされていたてんびん座。

多くの方は夏の星座に分類するのが自然だと思うことでしょう。

これについてプラネタリウム解説の大先輩・山田卓氏は、

著書でビバルディの協奏曲『四季』の移り変わりにたとえ

『てんびん座は、春の星空が夏の星空に移り変わるときの、

ほんの短い休止符だ』(夏の星座博物館・地人書館 2005年)という

名解説を残されています。


 ※室蘭民報 2023年5月28日掲載

 


からす座

室蘭市内で星を撮影するにはどこがいいですか?と

質問されることがあります。

市街地からわずかな時間で行ける海岸がおすすめです。

絵鞆岬からマスイチ浜を経て、トッカリショに至る海岸線は、

昼間訪れると風光明媚な景色が楽しめ、夜はきれいな星空が見えます。


177-からす座その3110A1007

▲『おとめ座のスピカとからす座』(撮影:2019552017 室蘭市東町)



私がよく利用するのがこのからす座を撮影したイタンキ浜です。

昨年イタンキ浜付近に市場が移転してきましたが、

その市場の西側の駐車場がおすすめです。

周囲の街灯が少ないうえ、駐車スペースが広く、

対岸の恵山岬付近に気になる街明かりはありません。

恵山岬の東側は暗闇が広がり星を観察・撮影するのに良い場所です。


さて、今回は春の星座・からす座を紹介します。

北東の空に見える有名な北斗七星のカーブにそって、

うしかい座の1等星アークトゥルス、そしておとめ座の1等星スピカを結ぶ

雄大な曲線は『春の大曲線』と呼ばれています。

その曲線をさらに延ばした先、スピカのとなりに

4つの3等星による台形型の星の並びがからす座です。


からす座は、明るい星のない小さな星座ですが、

2世紀にプトレマイオスが定めた48星座の一つに数えられる歴史ある星座です。

この星の並びからカラスを連想することはむずかしいですが、

からす座に関するギリシア神話でその由来がわかります。


星図 (掲載用)からす座



プラネタリウム解説の大先輩で、かつて名古屋市科学館におられた

山田卓(やまだたかし)さんの著作に詳しいのでその抜粋を紹介します。


「伝説のカラス(コルブス)は、銀色の翼が美しい太陽神アポロンの

使い鳥だった。アポロンはコロニスという美しい娘を妻に迎え、

そのカラスを召使いとして彼女にあたえた。

留守にすることが多いアポロンは、時々カラスを呼びつけ、

愛するコロニスのようすを話させて心を休めた。


カラスは自分の話を興味深げに聞いてくれるのがうれしく、

はなしぶりは次第に面白おかしく脚色されるようになった。

コロニスは夫のいないさびしさから、いつしか若者イスキュスに

恋心を抱くようになった。当然このことは、カラスの口から

彼女の不始末物語として、いかにも一大事というふうに語られた。


コロニスに裏切られたことを知ったアポロンは、

怒りくるってコロニスとイスキュスを殺してしまう。

アポロンの怒りはこのいやな話を得意げに告げたカラスにもおよんだ。

カラスは美しい翼を真っ黒にされ、おまけに恐ろしいほどのしわがれ声にされ、

天にはりつけにされた。暗黒の夜空に黒いからだは見えないが、

カラスをささえる4本の銀の鋲だけがめだっている」。

『春の星座博物館』 地人書館 2005年 原文ママ)


なお日本では、からす座の4つの星がよく目立つことから、

シンプルに『四つ星』と呼ぶ地方が多く、

また、水平線の上にまるで船の帆のように見えることから、

『帆かけ星』という風流な呼び名も残っています。


 ※室蘭民報 2023年4月23日掲載

 


宵の明星・金星

冬のころ南寄りに沈んでいた太陽は、
3月になってほぼ西の地平線に沈むようになってきました。
明後日・21日は春分の日。
この日の太陽は真西に沈みます。

176-宵の明星金星025A7449
▲『カムイヌプリ上空に見える三日月と金星』(撮影:20232221755 登別市札内町)

さて、日が沈んで空が暗くなり始めると、
西の空にひときわ明るい星が目につきます。
それは宵の明星と呼ばれる金星です。

地球と同じ太陽系の惑星・金星は、
地球の内側を公転しているので、日が沈んだ直後の西の空、
または日の出前の東の空でしか見ることができません。

その金星を望遠鏡でのぞくと、
月と同じように満ち欠けしているのがわかります。
月は三日月から半月を経て満月になるにしたがい
少しずつ明るくなりますが、金星は三日月のように
大きく欠けた時がもっとも明るく見えます。

地球・太陽・金星が一直線に並ぶことを
『外合(がいごう)』といいますが、
このときの金星は地球から遠い位置にあり、
ほぼ丸く見えます。
このときの明るさは、およそマイナス3等。

公転によって太陽の東側や西側に見える
最大離角の頃には半月のように見え、
このころの明るさはマイナス4等を超えます。
さらに地球に近づく『最大光度』のころには、
三日月状に見え、マイナス4.5等を超える明るさになります。

金星の満ち欠けと見かけの大きさの変化(国立天文台)

今年の金星の最大光度は2回あり、
7月7日は西の空で宵の明星として、
9月19日は東の空で明けの明星として、
それぞれかなり明るく見えます。

金星は英語でビーナスと呼ばれます。
一番星として西の空で輝くことが多いので、
昔の人は神話に登場する美しい女神のように
感じていたのかもしれませんが、
実際の金星はまったく違います。

金星の表面大気圧は、海の底深く900mにいるような
圧力を感じる90気圧。
その主成分の二酸化炭素の温室効果のため、
表面温度は470℃を超えるかなりの高温です。

さらにJAXAの金星探査機・あかつきは、
2015年に金星の周回軌道に入り、金星の雲の中には7
5.98%の硫酸が含まれていると観測しています。
もしも金星の雲から雨が降ると
濃硫酸を含む雨になりそうです。

そんな過酷な環境の金星ですが、
かつては地球と双子のような温暖な惑星だった
と考えられています。

1978年に金星に到達したNASAの探査機
パイオニア・ヴィーナスは、
過去の金星に海があった痕跡を発見しています。

小林憲正著『地球外生命』(中公新書 2021年)は、
NASAゴダード宇宙飛行センターの
マイケル・ウェイらによれば、30億年前の金星は
まだ温暖な気候で海も存在していたそうです。
しかし、今から7億年前の巨大火山噴火により
大量に噴出した二酸化炭素により、
急激に温暖化が進行し、現在のような表層では、
生物が住めないような環境になった」と紹介し、
続けて「ということは、現在は温暖な地球環境も
何かのはずみで金星のようになってしまう可
能性も考えられるわけです。」と
地球温暖化に対する警鐘を鳴らしています。


画像午後2


今年の金星は、3年ぶりに高度が40度を超えるので、
いつもの年よりも観察しやすそうです。

 ※室蘭民報 2023年3月19日掲載



天文台の星空~南半球チリの星月夜~

DENZAI環境科学館にプラネタリウムが新設されて1年。
すでに、のべ1万6千人以上の方に利用いただいています。
西胆振だけでなく、遠く苫小牧や札幌周辺からも
たくさんの方が訪れています。

175-1天文台の星空(タイトル画像)025A6835
▲上映中の『天文台の星空~南半球チリの星月夜』

当初は、「新しいから見に行こう」という方が多かったですが、
きれいに再現される星空や、美しく迫力ある
全天周映像番組をまた見たい、
というリピーターの方が増えており、
中には10回以上も利用される熱心なファンもいらっしゃいます。

さて、プラネタリウムの現在のプログラムは、
前半が冬と春の星空紹介、そして後半の全天周映像番組は、
『天文台の星空~南半球チリの星月夜』を上映しています。

この作品は、ヨーロッパ南天天文台(ESO)が、
南米のチリで運用する、3つの天文台から見える星空や、
宇宙空間を紹介しています。

ESOがこの場所に天文台を設置したのは、
世界でもっとも夜空が暗い場所、
もっとも宇宙に近い場所と言われ、標高が高く
大気の透明度が高いため、とされています。

最初に紹介されるのは標高2,400mの
高山にあるラ・シヤ天文台』。
ESOがチリに最初に設置した天文台で、
ESOが運用する望遠鏡のほか、ヨーロッパ各国の
望遠鏡が複数設置される、南米では最大級の
国際共同天体観測施設です。

この天文台では、地球からおよそ3000光年も離れた
系外惑星が発見されています。

2番目に紹介されるのは、アンデス山中の
標高約2,600mに設置された『パラナル天文台』。
口径8.2mの超大型望遠鏡4台などを備える世界最先端の
天体観測施設です。4台の望遠鏡を光ファイバーでつなぎ、
実質口径130mの巨大な望遠鏡として
動作させることができます。

175-2アルマ望遠鏡110A1240
アルマ望遠鏡と天の川銀河

最後に紹介されるのは、南米チリ北部、アタカマ砂漠の
標高5,000mの高原に設置されたアルマ望遠鏡です。
年間降水量が100mm以下と、世界でもっとも
乾燥した場所の一つと言われ、
口径12mのパラボラアンテナ54台と、
口径7mのパラボラアンテナ12台、
合計66台を結合させることで、
ひとつの巨大な電波望遠鏡を作り出しています。

日本を含む22の国と地域で運用するアルマ望遠鏡の
設置目的は、宇宙の目として、惑星誕生のメカニズムや
地球外生命の可能性を探り、宇宙のルーツをたどること。
光を放たない巨大なブラックホールを、電波により観測し、
謎を解き明かす試みが、美しい映像とともに紹介されています。

この番組に登場する満天の星は見事で、
北海道からは見ることができない、
小さな星の十字架と言われる『みなみじゅうじ座』をはじめ、
全天で2番目に明るいりゅうこつ座の
1等星『カノープス』などを観察することができます。

冬の大三角など、北半球でおなじみの星座が
南米ではどう見えるのか?
地球を約半周するほど遠い、南米チリに行く機会は
なかなかありませんが、プラネタリウムで
心地よいナレーションと音楽に包まれながら、
南米チリの満天の星空を眺める、という時間の過ごし方は
いかがでしょう。
この『天文台の星空~南半球チリの星月夜』の上映期間は、
3月末までの予定です。

 ※室蘭民報 2023年2月19日掲載

 

 


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kamokenyamafc

Author:kamokenyamafc
DENZAI環境科学館の天文ガイド

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